校長の柿
職員室の南側の運動場に通じる坂に柿の木が1本生えている。
今年もたくさんの柿の実を実らせている。
ちょうど食べ頃になった今時分に、生徒が木に登ってその実を取ろうとする。
教員の中にもおいしいからとちぎってきて、ナイフで上手に皮をむき、みんなに食べさせてくれる人もいる。
今日部活動を終えて、職員室に戻ってみると、おいしそうな柿の実をA先生がむいている最中であった。
「むいたから食べんね。」自分が食べるのを後にして他の先生に勧めている。
私は柿はあまり好んで食べないので、手をつけなかった。
そこへ校長先生が来られた。
校長先生は、「ああ、柿ね。私もあの柿の木の右の上の方についている実をいつも観察しとるんよ。」「もう少ししたら食べ頃になると思うて、待っとったいね。」「だから、生徒が登ってその実を取らんように、生徒にはいつも言いよる。」「他の柿の実は取ってもいいけど、木を揺すってあの実が落ちたら怒るぞ、と言いよるったいね。」
そしたら、ある先生が「今日はバスケの女子が木に登って柿を持って帰りよったですよ。」
校長「まさか、言うとるはずばってん、俺の柿をちぎってなかろうね。」
「んー、それはわかりませんよ。」
校長先生は、もう暗くなった外の柿の木を見に職員室を出た。
「あぁー」外にいる校長先生の声が職員室まで聞こえる。
校長先生は職員室に入ってきて「誰か取っとうばい。」と唖然とした声で言った。
「生徒にはよくよく言うとったから、取らんはずやけど・・・。」
今みんなが口にしている柿に目が行った。
まさか、
みんなの予感は的中した。
この柿は、部活動の指導が終わって、運動場から職員室に戻る途中にA先生がちぎって持って来たものだった。
しかも右の上の方についていた柿、つまり校長先生が観察していた柿の実だった。
知らなかったとはいえ、校長先生が大事に見守っていた柿を食べてしまったのは生徒ではなく、先生たちだった。
校長先生が、冗談で「明日、俺の柿を食ったものは呼び出すけんね。」と言って職員室を出て行った。
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